サーカディアンリズムと就寝環境整備


深夜勤務は勤労者の健康、心理等に悪影響を与える。人間は昼働いたと思ったら、次の日は深夜に働くという真似を続けることができない。医学的にみると、生体機能のあるものは地球の自転に従い、昼夜24時間前後のリズムを持っており、そのリズムの中枢は脳幹の視床下部ア・プリオリに存在し、内分泌、神経伝達などについて生理的な「生活の一日周期リズム」を保っているという。これはピリオド遺伝子の転写レベルが24時間前後の周期で変動するためである。1959年にドイツの学者がこの生物の持つ24±4時間の周期性を発見し、「サーカディアン・リズム」と名付けた。これは、いわゆるバイオリズムとは異なるものである。

人間は朝から昼にかけて徐々に交感神経が優位に転じ夕方6時頃に高いピークを示すが、夜間には自律神経として副交感神経が優位となり、体温が低く脈が遅く血圧が低い状態が続き、朝4時頃が最も著明となることが観察されている。つまり深夜から早朝にかけての時間帯が人間の判断力と肉体的な適応力が一日の中で最も衰えるのである。
深夜勤務を行うと、このサーカディアン・リズムが大きく撹乱される。社会が24時間化した今日、もっとこの問題に注目する必要がある。

サーカディアン・リズムが撹乱されると、個人差が大きいが、次のような問題が発生することが分かっている。

■健康障害
サーカディアン・リズムの撹乱とは一時的に見れば「時差ボケ現象」と同じである。時差ボケ現象が定常化したときのことを想像してほしい。次のような疾患が生じるといわれている。
・胃十二指腸潰瘍
心筋梗塞脳卒中
・循環器系、内臓神経系の自律神経系の障害
・過度のストレス
・慢性疲労の蓄積
・風邪など一般の病気への抵抗性の減弱 など

■ヒューマンエラー
自律神経系の障害に伴い発生する睡眠・覚醒障害、疲労感、集中困難、能力の低下などにより作業ミス(ヒューマンエラー)が発生しやすくなる。ある調査によれば、深夜0時から早朝4時までの間のエラー発生件数は他の時間帯の2〜3倍であるという。

ヒューマンエラーはこれまでも社会的影響が大きい航空機、原子力発電所、化学プラント等の安全管理で重要視されており、また、研究も進んでいる。

深夜のヒューマンエラーというと1979年の米国・スリーマイル島原子力発電所事故、1986年旧ソ連チェルノブイリ原子力発電所事故、1989年米国・エクソンバルディーズ号原油流出事故がよく引き合いに出される。いずれの巨大事故も深夜から早朝の時間帯に発生しており、ヒューマンエラーがその主原因であるといわれている。

船舶事故全般に関し、深夜から早朝の海難発生率は他の時間帯の約2倍であるという報告がある。交代で操船作業を行う当直者の心身機能のリズムは必ずしも夜勤に同調していないのだそうだ。そういえば、映画で有名になった1912年のタイタニック号の海難も同じような時間帯ではなかったか。

わが国でも交通事故による死亡者数の時間的分布を見ると、人が少ないはずの深夜でも死亡者数は減少していないことが分かる。

サーカディアン・リズムは普遍ではあるが、神経接続は可逆的変化を起こすことが知られており、照明を昼夜逆転させることなどにより、環境に適応したようにすることができることが証明されている。これを「行動の環境による装飾」の達成という。このためには夜勤者に対し次のような対応策を検討していくことが必要である。

●深夜の職場に真昼の明るさに近い照明設備を設置すること
職場の照明を昼間並みにするには通常の職場に比べ400倍程度明るい照明にしなければならないといわれている。現在は、通常の職場に比べ20倍程度明るい照明で試行されているが、それでも効果があるという。
●深夜・早朝でも買物や食事など通常の生活行動ができる社会的インフラを整備すること
●日中は暗がりの中で過ごし、就寝できる環境を整備すること

就寝の際に、よく眠れる工夫がもっと必要だ。ベッドや枕があわなくて眠れないようでは困る。フランスベッド販売が「ベッド&ソファ&ダイニング」というフランスベッドの展示会を首都圏では月に2、3回、関西圏では月に1回程度開催している。

深夜勤務なのに眠れないとか、日勤でも眠れない人などは、自分の就寝環境を点検するために、こうした展示会に行って相談するとよい。


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