学校防犯対対策のあり方を探る 〜海外の学校防犯対策に関する調査研究結果から〜

vinykiki2006-02-05


1 はじめに
 2001年6月、大阪府池田市大阪教育大学付属池田小学校で児童が殺傷された事件はわが国の教育界に外部の侵入者による攻撃から学校をいかに守るかという重大な課題を突きつけた。この事件を契機に、様々な学校防犯、安全対策が講じられたが、2003年12月には京都府宇治市の市立宇治小学校で似た事件があり、2人の児童が軽傷を負った。また、今年2月には、大阪府寝屋川市立中央小学校で校門から侵入した若い男に刺された男性教諭が死亡、女性教諭と女性栄養士も重傷を負うという事件が発生した。
 これまで学校の安全といえば、学校事故や児童・生徒の問題行動への対応策が主な関心事であった。つまり児童・生徒を含めた学校関係者の行動に目が向いていたといってよい。特に学校において暴力といわれるものは、内部の関係者間のものであり、外部の人間が児童・生徒等を襲うという類のものは想定外であった。諸外国においてもこの傾向はさほど変わらず、わが国だけが特別な状況下にあったわけではない。
 しかしながら、米国、英国、ドイツを初めとする欧米各国では学校における殺傷事件について、学校関係者や地域社会で積極的な取り組みが行われていることから、池田小学校事件直後の2002年に諸外国における対応策について調査を行い、その結果からわが国の学校に生かすことができる対応策を議論する委員会を立ち上げ、その結果を報告書としてまとめた[1]。

2 調査の概要
(1)対象とする脅威
 いじめ等の学校内部の問題より、学外からの侵入による殺傷事件を主に対象とした。

(2)対象とする学校
 対象とした脅威の趣旨に沿うように、わが国でいえば、小学校から高等学校に相当する学校を対象とした。大学はレイプ事件等新たな事例とその対策が表れるため趣旨に沿わなくなるので、除外した。

(3)対象国
 前記のような脅威と対象とする学校において、対応策を積極に講じて、わが国の参考になるような文献を公表している国は意外と少ない。予備調査の結果、米国、英国、ドイツの3カ国に絞った。
(4)まとめかた
 すべての安全対策の策定及び実施は、計画(PLAN)、実施(DO)、点検(CHECK)、見直し(ACT)の4つのマネジメントプロセスに沿っていることが望ましい。この4つのプロセスのひとつでも欠けると、継続的な改善に支障をきたすことになる。このような考え方に基づき2001年に制定されたのが日本工業規格JIS Q 2001:2001「リスクマネジメントシステム構築のための指針」[2]である。この調査では、一過性の対策立案ではなく、学校の安全対策を継続的に実施するための仕組みが学校に組み込まれていることが望ましいと考え、対策の調査にあたってはこの工業規格が示すリスクマネジメントの7原則に基づき、文献で提案または提示されている対策をまとめなおした。
池田小学校事件以降に類似の事件が連続して発生したことから鑑みこのPDCAプロセスが学校に定着していることはやはり重要であったことが理解してもらえると思う。

〈リスクマネジメントの七つの原則〉
①取り組み方針
②学校防犯に関する計画
③対策の実施
④対策の評価
⑤是正・改善の実施
⑥組織の最高経営者によるレビュー
⑦学校防犯維持のための体制・仕組み(行政等の支援、学校防犯教育・訓練、リスクコミュニケーション等)

3 調査結果
(1)暴力に関する概況
 欧米の青少年犯罪の中で学校における犯罪の発生件数は約1%と極めて少なく、特に学校が犯罪の温床になっているわけではない。 また、米国、英国、ドイツの3カ国について国ごとに学校における暴力事件の性質とその対応策が異なるのが特徴的である。
 いずれの国でも児童・生徒の殺傷事件は発生しているが、関心の程度が異なる。米国では銃器等を使用した暴力に関心が集まっているのに対し、英国、ドイツではいじめ問題の延長線上で学校内暴力が語られる傾向が見られた。

(2)米国に見る学校犯罪の状況
 学校における暴力犯罪を国別に把握して、比較することは大変難しい。国によって犯罪統計の仕組みが異なることが大きな要因であるが、それ以上に学校制度、学校安全に関する法規制そして学校管理の仕組みや慣習などの違いが影響している。確かに米国では、主にけん銃による重大殺傷事件が多く発生・報道されており、学校における重大な暴力事件を指して「学校テロ(Terrorism in our schools)」などと言われることがある[3]が、発生件数を見ると必ずしも学校での重大な暴力犯罪が多いわけではない。例えば、校内での殺人事件は1997年と98年の2年間で35件、青少年による殺人事件のわずか1%にすぎない。
 1996年から97年に公立学校で発生した犯罪の種類と件数を見ると全体的な傾向としては、武器を使わない物理的な攻撃、窃盗、破壊行為が重大な暴力事件より一般化しているといえる。 全学校の44%から49%がこの種の犯罪を警察当局に報告したという。これに対し死傷事件に至るような武器を使用したケンカ・攻撃の類を警察に届け出た中学校、高校はそれぞれ約一割しかなく、学校暴力の主たる要因ではない。[4]

(3)学校防犯対策の概要 − パートナーシップとリスクマネジメントが重要
 学外からの侵入事件への対応策は米国の文献が有用で、主に、米国の3つの文献[5][6][7]を参考に対策の概要をまとめた。ポイントは「パートナーシップ」と「リスクマネジメント」の視点である。学校組織はもとより地域社会、行政、司法等、学校に関係する組織・個人が学校のあり方に問題意識と強固なパートナーシップを持ち、学校の安全に貢献しようとしていることはわが国の学校防犯のあり方にも大いに参考になるだろう。リスクマネジメントシステムの7つの要素すべてではないが、多くに対応する対策が見られ、学校防犯をシステムとして実施すべきであるという考え方は、わが国で学校防犯を検討する際に注目すべきことである。特に、脅威の評価についてわが国で見られないユニークなものがあり、資料として報告書に添付した[7]。
 なお、ドイツでは、学校暴力と戦うためにはネットワークが必要であるという考えが一般に受け入れられている。このため、多くの州では「反暴力ネットワーク」が確立している。このネットワークには学校の他に、自治体当局、青少年支援当局、警察、司法当局、青少年福祉事務所、少年裁判所、地域の職業安定所などが参加しているという。
 また、学校の開放も暴力に有効であるという考え方が反暴力ネットワークと同じように認められている。この考え方は学校を地域社会にできるだけ開放し、学校を取り巻く社会の現実を学校の環境、特に学習プロセスに取り込んでいくことを通じて反暴力を徹底させようとするものである[8]。これがドイツの特徴である。

(4)取り組み方針
 取り組み方針は、学校が安全対策活動において何を目的として、何をどのように実施するのかを示すものである。この方針は行動指針と活動の目的・目標から構成し、文書で明確に表明することが望ましい。この調査では、「総合的学校安全計画の目標」、「安全で生徒全員に配慮の行き届いた学校にするために」、「暴力予防・対応計画策定の取組方針」などのような取り組み方針が明確に文書化されていることが分かった。これらの取り組み方針は、学校のステークホルダー(利害関係者)に対して示されたもので、適切である。

(5)学校防犯に関する計画
 学校防犯対策の仕組みづくりのなかで重要な原則が計画の策定である。計画の策定は、大きく次の3つのプロセスに分けられる。
・リスク分析・評価の実施
・対策の選択
・プログラムの策定
 これらをまとめたものが計画となる。例えば、米・カリフォルニア州では、学校安全計画を作成しており、また、暴力予防カリキュラムの作成も行われている。そのほか、「衝突解決」、「平和形成」、「怒りの管理」などに関する実施計画も策定されている。安全手順や危機管理マニュアルもこの計画に含まれると考えられる。こうした計画類は学校防犯の基本文書として維持・更新すべきである。
 学校のように高度に社会的な組織では、リスク分析・評価は客観的な第三者の参画を得て実施することが社会的に求められることがある。こうした意味から、脅威評価の手法が提案され、ステークホルダーが参加した客観的評価を求めているのはコミュニケーション理論上、有意義である。

(6)対策の実施
 対策は、時間軸から見ると事前対策、緊急時対策、復旧・回復対策という3つの対策に分けられる。緊急時対策と復旧・回復対策は事後対策である。対策は、事情に応じてこれらの対策のうち適切なものを組み合わせて策定する。「組み合わせる」という意味は常に3つの対策でなくてもよいということである。対象とする脅威によっては事前対策だけ、事前対策プラス緊急時対策だけという対策もある。事前対策の主な目的は、事態の発生防止とリスクの低減である。緊急時対策の目的は、被害の最小化、被害拡大防止、二次被害の防止、復旧・回復対策の早期立ち上げなどである。また、復旧・回復対策は、基本的には緊急時対策に引き続き実施するもので、その目的は、二次被害の防止と通常の組織活動への早期復旧、被害者のケアなどである。
 この調査で抽出できた具体的な対策は大きく次のように分けられる。
・対策組織
・設備上の対策
・警備上の対策
・規則・規律
・緊急時対策
・危機終了後の対策
 これらの中から、わが国の学校にも比較的容易に応用できそうな学校の安全管理のポイントをいくつか紹介してみたい。

① ゼロ・トレランス・ポリシー
 「ゼロ・トレランス・ポリシー」とは「特定の犯罪に対しあらかじめ決めておいた結論または処罰を命ずる学校またはその地域の方針」と定義される。米国の公立学校の多くは重大な生徒の犯罪に対してゼロ・トレランス・ポリシーを持っている。少なくとも9割の学校が小銃や小銃以外の武器、酒、ドラッグに対するゼロ・トレランス・ポリシーを持っている。また、八割の学校が暴力とタバコに対するゼロ・トレランス・ポリシーを持っている。
 米国では教育再生のために各学校がこのゼロ・トレランス・ポリシーを定め、生徒に対して厳しい指導を行った結果一定の成果を上げてきた。わが国では「教育的配慮」が重視され、それが功を奏してきた面もあるが、一方でそれが学校の秩序や規律を失わせた原因と指摘する識者もおり、ゼロ・トレランスの導入を検討することが望まれる。教育的配慮の対極にあるのは警察の介入ではない。学校側にもまだやることがあることを認識した上で、それを方針として生徒、保護者、教職員等学校関係者に表明し、実行することである。
 わが国でも、高等学校等の中には、生徒が校則違反を犯すたびに10段階のペナルティを課し、最終段階で退学とする「ゼロ・トレランス」方式を導入するというところがでてきた。すでに導入の時期に来ていると考える。

② 訪問者の登録
 学校の安全確保には地域の協力が不可欠である。集団で学校施設を利用する場合だけを管理するわが国のやり方と異なり、欧米各国では生徒、教職員以外の出入りを基本的にすべて監視する基本方針をもっているように思われる。表現の違いはあるが、次のような来客に対するビジターズ・ポリシーを徹底している。わが国でも安易に学校開放を中止するのではなく、逆に地域に学校開放を一層すすめ、学校安全の確保にも参加してもらう施策を推進することが望まれる。
 ビジターズ・ポリシー例: 『わたしたちはすべての保護者と当学校へのお客様を歓迎します。学校にいるすべての人に安全な環境を提供するために、事務室に訪問の旨をご報告いただき、教室に行く前に来客用名札を身につけるようお願い申し上げます。来客用名札は事務室に置いてあります。これは自分の子供を教室に連れて行くときも同じです。
当学校の生徒の安全で規則正しい環境を保証するためにご協力をお願いいたします。』(出典:米国ニュージャージー州デアフィールド・タウンシップ小学校のビジターズ・ポリシー)
③ 避難場所の設定
 安全な学校づくりのためには学校の物理的環境の整備が必要である。それが生徒や父兄の安心感にもつながるのである。米国では学校の物理的安全性の向上策として次のようなことが実施されている。
・建物と運動場の出入り口を監視する。
・学級生徒数を少なくし、学校の規模を小さくする。
・時間表を調整して生徒が廊下や危険発生の可能性のある場所に滞留する時間を短くする。
・学校の安全担当者または警察等と協議して、学校校舎の安全監査を実施する。
・昼食時には校庭の出入り口を閉門する。
 
更に重要なことは、万一の事態に備えて教職員や生徒が避難する安全な場所を指定する対策が示されていることである。これは学校の危機管理上必要な対応策である。
 学校の危機管理計画には危機が発生時の段階的な手順を含めておく必要がある。例えば次のようなことである。
・直ちに緊急医療体制を準備する。
・日本で言えば119番を先に呼び出し、救急要請を行う。警察通報はその後に行う。
・危機対応チームは状況を把握し、危機対応手順を実施する。
・対応要員を確保し、集合させる。
・警察等へ通報する。
・校内各区域を監視下におく。
・生徒と教職員を被害から保護するために避難手順その他必要な手順を実行する。
・危機の間は、安全確保のためベルを連続作動させておく。
・各種情報システムの担当者には混乱と誤報を防ぐように注意する。

 以上を瞬時に実行に移せるだけの体制の整備が必要であり、この中で最も経験と準備が必要なのが避難場所への避難誘導である。危機発生時には教職員も生徒も混乱の極みにあることが容易に想像される。そういう状況下でも生徒を安全な場所に避難誘導するためにはそれ相応の訓練が必要であろう。
 わが国では大規模地震対策として避難・誘導訓練は定番の訓練であるが、学校の危機に関してはまったく考えられていない。1999年の米国におけるいわゆる「学校テロ」事件のあと、空軍の参加の下に対テロ訓練を実施したり、警察、消防、及び救急医療職員の参加の下に実施した学校が見られた。わが国では大規模地震対策として類似の対応策が実施されており、それを応用することで危機発生時の避難誘導手順の策定も安全な避難場所の確保も容易に検討できよう。

(7)対策の評価
 「評価できないものは管理できない。」これは不確実な犯罪リスクを管理する場合でも同様である。対策の仕組みを評価する場合には、本来、対策策定のプロセス評価と、管理システムの有効性評価の2つが必要である。
 米・カリフォルニア州では、学校は学校安全計画を少なくとも1年に1回は評価し改正することを求め、対策の評価と管理システムの有効性の評価を求めている。評価の実施状況は図に示すとおり、実施率が必ずしも高くないのが今後の課題である。
 ただし、学校安全の分野においては国内海外を問わず、対策の評価はあまり得意ではないようである。対策や対策計画そのものの豊富さに比べ、評価に関する文献は少なくなる。

(8)是正・改善の実施
 評価の結果に基づき、不適合が発見された場合には、必要であれば是正・改善策を実行する必要がある。学校管理においては是正・改善のプロセスは学校という組織にあるというよりは、学校を管理する行政側が持っているケースがわが国同様多く、後述する学校防犯維持のための体制・仕組みの中で是正・改善のプロセスが実施されているようである。
 何か事件が発生すると、継続的な是正・改善が言われるが、管理システムとして学校という組織に組み込むスキームに関する情報を見つけることはできなかった。

(9)組織の最高経営者によるレビュー
 学校の場合、見直しをするのが必ずしも学校という組織の長であるとは限らない。地域の教育システム全体でレビューする傾向にある。
 この調査では、こうした点に関し、特に目立った情報は得られなかった。

(10)学校防犯維持のための体制・仕組み
 学校防犯の仕組みは単にPDCAの仕組みを構築するだけでなく、その活動を維持するためのインフラともいうべきいくつかの仕組みを構築・維持する必要がある。
 主なものは次の3点である。
・行政等の支援
・学校防犯教育・訓練
・リスクコミュニケーション

① 行政・司法等の支援
 学校の防犯は単に学校という施設の防犯性能を強化することだけでは達成できない。地域ぐるみの取り組みにより、ドイツのように学校暴力と戦うネットワークづくりが必要である。このため、学校のほかに、行政や司法も含め多くの利害関係者が参加することが重要である。
 こうした考え方はわが国では防犯環境設計として最近取り上げられるようになってきたものである。
 防犯環境設計は、「建物や街路の物理的環境の設計や再設計を通じて、地域の安全性を向上させたり、犯罪に対する恐怖を取り除いたり、犯罪を助長する要因を除去したりするもの」と定義されている。住民や警察、地方自治体などによる防犯活動と合わせて総合的な防犯環境の形成を目指すものである。わが国でも2001年、国土交通省警察庁が連携して「共同住宅の防犯上の留意事項」と「防犯に配慮した集合住宅の設計指針」を策定し、公表したが、あれが防犯環境設計である。 防犯環境設計の基本原則は次の4つにまとめられる。
・監視性の確保(Surveillance)
不審者や不審な行動を見極める。
・領域性の強化(Territoriality)
住民に交流、警戒、不審者の監視を促して、部外者が侵入しにくい環境をつくる。
・接近の制御
犯罪企図者の動きを限定し、接近を妨げる。
・被害対象の強化、回避
出入口や窓の錠や扉、ガラスなどを強化し、施設などへの侵入を防ぐ。この部分だけを実施する方法が学校の刑務所化である。
 
わが国には今のところ集合住宅のみの設計指針しかないが、地域社会の中で学校を守ろうとするときにはこの防犯環境設計の考え方を学校防犯にも取り入れていく必要がある。
 この調査では特に監視性の強化を図るために、各種情報を学校、両親、コミュニティの各種団体、並びに警察等に提供する仕組みが多く見られた。特に、米国では利害関係者間の「パートナーシップ(協調)」がどの安全・防犯対策でも全面に押し出されているのが特徴である。この枠組みの中で、安全対策の評価、是正・改善、見直しというプロセスが実施されていることが多い。そのために米国では、学校安全に対する司法関係者の参加や連邦・州政府の資金拠出などが積極的に行われており、わが国から見ると羨ましい状況にある。

② 防犯教育・訓練
 安全対策の分野における教育・訓練は、要員がその役割を果たすために必要な能力を開発する「能力開発」の側面と対策実施のための要員に必要な技術を身につけさせ、それを維持させるためのいわゆる「教育・訓練」に分けられる。
 次のような教育・訓練が実施されていることは大変興味深いことである。
・警察官及び警備員の訓練
・教師等の訓練
・小・中学生に対する抵抗教育・訓練
・個別指導・介入
・学校管理者に対する学校暴力予防のための訓練

③ リスクコミュニケーション
 リスクコミュニケーションとは「意志決定者と他のステークホルダー間でリスクに関する情報を交換または共有すること」をいう。 リスクに関する情報とはリスクの存在、性質、形態、発生確率、重大性、受容性、対処法などに関するものである。そこにはリスクに関する理解レベルを向上させ、リスクに対する対処法をともに考える(共考する)というプロセスが含まれる。従来の情報開示とは次の2点において異なる。
・双方向のコミュニケーションであること
・結論よりむしろプロセスに意味があること

 例えば、ウェブサイトに学校安全と危機に対する備えに関する法律の現状と提案を掲載して、最新情報を発表しているケースなどは双方向のコミュニケーションを図る有効な手法といえよう。また、多くの文献で暴力の予防と早い時期に問題に指導・介入する努力を重ねることによって、校内での暴力やその他の問題行動を減少することができるとしている。最も期待のもてる予防及び指導・介入に関する戦略は、教育界、管理者、教師、家庭、支援スタッフ及びコミュニティが連携して全ての子供たちと密接な関係を築き上げるように努力することである。

4 おわりに − PDCAとリスクマネジメント 
わが国の組織は計画と実行は行うが、点検と見直しが苦手であると言われている。これが長続きせずに対策が風化してしまう主たる原因である。これに対し欧米の学校防犯では、リスクマネジメントの考え方を取り入れ、PDCAのサイクルで安全対策を講じていこうという傾向が見られたのは、非常に興味深いことである。ただし、対策の評価、是正・改善、見直しというプロセスはPDCAというよりは、学校防犯を維持する体制・仕組みの中で実施されており、一般のリスクマネジメントプロセスとは若干異なる枠組みであるように感じられた。
 対策をいくら講じてもそれを見直して、継続的な改善を図る管理システムがなければ、安全対策は時間と共に風化し、今後何度でも事件は再発する。また、対策そのものも設備的な対策と管理上の対策のバランスがとれていなければ学校の安全は確保できない。監視カメラを設置したのはいいけれど、それを十分に監視できる体制がなければ、無駄な投資というものである。管理システムの構築、設備と管理のバランス、そして学校そのものと地域社会とのバランスなどバランスのとれた安全管理が今こそ求められている。
 欧米で実施されている対策がわが国の学校にそのまま適用できるとは思われないが、それらを参考にして試みを行うべきである。今後、諸外国の対策がわが国に適用できるかについて一層の調査研究も必要である。

[参考文献]
[1]海外の学校防犯対策に関する調査研究、(財)社会安全財団、2002年3月
[2]JIS Q 2001"リスクマネジメントシステム構築のための指針",日本規格協会, 2001
[3]Terrorism & Violence in Our Schools, Daniel E. Della-Giustina, Scotte. Kerr and Dawn L. Georgevichp, Professional Safety, 2000
[4]Indicators of School Crime and Safety 2000, Department of Education, 2000
[5]Early Warning, Timely Response: A Guide to Safe Schools, US Department of Education, 1998
[6]Security and Crime Prevention Strategies in California Public Schools, Marcus Nieto, CRB-99-012, 1999
[7]The School Shooter: A Threat Assessment Perspective, National Center for the Analysis of Violent Crime, 1999
[8]Violence in schools National activities, programmes and policies Germany, The European Commission, 1998