防犯と住宅

防犯センサー
「泥棒達のここだけの話 泥棒の告白から」という冊子がある。以前、兵庫県の東灘署が窃盗犯の生の声を集めて作ったものである。もとネタは、兵庫県警が窃盗容疑で逮捕した「ベテラン」のドロボーを対象に行ったアンケートだが、住宅の防犯を考えるうえで大変貴重な資料である。

こんな家が危ない
この資料を読むとドロボーが入りやすい住宅のイメージが浮かんでくる。

◇一般住宅街にある一戸建住宅
一般住宅街は、高級住宅街に比べて戸締まりが不十分で、留守宅が多いとドロボーは思っているから、ドロボーの好きな地域である。反対に、商店街や住宅密集地は人目につきやすく、高級住宅街は戸締まりがしっかりしているので嫌われている。

また、ドロボーはマンションより一戸建住宅が好きである。広い道路に面していないところ、人通りが少ないところであれば申し分ない。
別の調査でもドロボー被害の約8割は一戸建住宅である。

◇塀があり、飼い犬のいない家
塀や植木がある住宅が狙われやすい。塀のある家は塀の内側に入ってしまえば外から見えないからというのがその理由である。庭が暗ければなおさら良い。塀はドロボー対策にはならないのである。
一方、ドロボーは犬が嫌いである。飼い犬がいる家ではほとんどのドロボーが犯行を断念している。
犬を飼うのは有効なドロボー対策といえよう。

◇開けやすい錠の家
古い錠や現在最もポピュラーなクレセント錠、シリンダー錠は一番壊しやすいという。クレセント錠などは、ガラスを割れば簡単に開けられる。少し難しい錠でも、錠の穴に何本かの先の曲がった針のような道具を差し込んで開錠することができる。これをピッキング技術という。そのピッキングを教える講習会に参加して技術を修得したというドロボーもいる。ドロボー達も日々勉強し、自己研鑽に励んでいるのである。ピッキングは、鍵をなくしたり、車のなかに鍵を忘れたときなどに合鍵を使わずに錠を開けることが本来の目的なのだが・・・。

一方、ドロボーは扉や窓に2個以上の錠を設置している家や電子ロックなどを苦手としている。錠を2つつける、つまり補助錠を取り付けているということはドロボーにとって「防犯対策がなされている」という警報である。2個以上の錠がついている家には侵入しないことを営業方針としているプロのドロボーがいるほどである。

刑事が教えるマル秘テクニック
警視庁などではドロボーの手口をプロフェッショナルのものと判断すると、盗犯○○号などと番号をつけて素人と区別している。「カギ開け3分、物色5分」といってこうした大物にかかったらどんな防犯設備があっても侵入され、好きなように持っていかれてしまう。

本物のプロフェッショナルは別として普通のドロボーにはこれで十分、というドロボー対策を某警察署の刑事から内緒で教えてもらった。
「普通のドロボーは入りやすい家にしか侵入しないから、隣の家の防犯レベルよりちょっと上の対策をしておけばよい」というものである。
留守の家に侵入するのを「空き巣」、夜中に侵入するのを「忍び込み」、一家団らんのときに侵入するのを「居あき」と呼ぶ。いずれも捕まりたくないし、短時間で仕事をしなければならないので、隙があって、防犯レベルが低い家に侵入するのである。危険を冒してまでガードの堅い家にチャレンジするドロボーはもういない。

例えば、隣家の錠が一つであれば、自分の家は2つつける、隣が2つであれば、首錠を頑丈なものにすればよい。
また、小窓は面格子にする、犬を飼う、庭に照明をつける、といった対策で近所のレベルと差をつけたい。あるアパートの入り口に「窃盗罪は刑法第135条により・・・」という貼り紙があるのを見て犯行を断念したドロボーの話を聞いたことがある。

この刑事の内緒話は、近所付き合いを良くするなどして地域全体の防犯レベルを上げよう、という地域防犯の考え方と相入れない自己中心的なところがある。また、みんなが知ってしまったら意味をなさないので「マル秘テクニック」なのである。心掛けとして覚えておくのも有益だろう。

錠はドアの部品ではない
石油ショック以降、素人のドロボーが増えたといわれる。素人は、手間のかかる丈夫な錠などは敬遠する。錠を頑丈なものにするのは有効なドロボー対策である。

全国防犯協会連合会では、1980年から独自の基準に合致した錠にCPマークを与えている。CPはCrime Prevention(犯罪防止)の頭文字をとったものである。CPマークつきの錠はバールやハンマーなどで壊そうとしても壊れないという。一般にはほとんど知られていないが、同連合会が実際の錠破りの手口などを研究しながら作った基準だけに信頼できよう。しかしCP錠は非常に重いので、一般住宅の木製玄関扉などにはつけられないのが欠点である。

同連合会では「一般の住宅向けには軽量だがCP錠に似たものが作られており、新築や増改築の時には、『CP錠に類似の錠を』といってメーカーに頼むとよい」とアドバイスしている。錠はドアの部品ではない。ドアを選ぶ際には、住宅のセキュリティを考えて錠も前向きに選ぶべきである。

ところで、いくら頑丈な錠をつけてもカギをかけなければ、ないのと同じである。ドロボーはカギのかかっていない家をいつも捜している。侵入盗の四割近くはカギのかかっていない玄関などから侵入しているのである。頑丈な錠をつける前に、外出時には必ずカギをかける習慣をつけることが大切である。また、玄関だけでなく勝手口や窓にも注意しよう。

カギをかけても、子供のためなどに扉の近くにカギを置いておく人がいる。この置きカギは、どんなに上手に隠しても、プロのドロボーならすぐ見つけてしまう。つまりカギをかけていないのと同じである。
カギは他人に見せナイ、貸さナイ、預けナイ、扉の周辺に隠しておかナイ、名札をつけナイ、の「五ナイ」が重要である。

ホームセキュリティは効果的
火災を感知するセンサーやガス漏れセンサー、窓やドアなどから不法侵入するドロボーをキャッチする機器を自宅の要所に配置する。これらの機器と警備業者のコントロールセンターを電話回線で結んだ二十四時間オンラインシステムを、総称してホームセキュリティという。普及率はまだまだだが、警察庁も犯罪抑止には効果があると評価している。設置したからといってドロボーが捕まえられる訳ではないが、この家は防犯対策を講じている、という意思表示になる。危険を覚悟で入ってくるドロボーは少ない。

センサーには、次のようにいろいろな種類がある。用途、場所などに応じ、使い分ける必要がある。


・マグネットスイッチ
 窓や扉の本体と枠に一対の磁石型スイッチを設け、磁石が離れると(窓、扉が開くと)発信する。
・ビームセンサー
 一対の赤外線照射機と受光機を設け、侵入者を赤外線の遮断物として感知する。
・熱線センサー
 人体(侵入者)、動物などが発する熱を赤外線感知器で感知する。
・ショックスイッチ
 ガラス、ショーケース、金庫などに取りつけ、加えられた衝撃を感知する。
・マットスイッチ
一般にマット状に製作され、荷重が加わると(侵入者が上に乗ると)発信する。
・テープスイッチ
マットスイッチと同質のものをテープ状に加工し、へいの上などに敷設する。

しかし、センサーをいくつもつければ、それだけ費用もかかる。狙われやすいポイントを中心に効率良く機器を配置すべきである。
また、警備業者は、警備業法で異常発生から25分以内に警備員を到着させることを義務づけられているが、ドロボーは25分も待ってくれない。パトロールが頻繁で、何かあったら、すぐに駆け付けられるか、といったサービスの質と内容も吟味する必要がある。

ドロボー被害と保険
住宅に侵入するドロボーはほとんどが現金を狙う。現金に続いて貴金属、毛皮、洋服類、預貯金通帳が取られている。金額に換算すると、被害は1件当たり数万円から数十万円である。金融機関や貴金属店を狙う窃盗犯等に比べると一件あたりの稼ぎは小さいが、住宅を狙うドロボーの方でも一般家庭から何百万、何千万円も取れるとは思っていないだろう。大金を家に置いておかないことが大切である。

家財に「住宅総合保険」という損害保険をかけていると、現金の盗難は20万円まで、預貯金証書の盗難は一定の基準で200万円を限度として補償される。貴金属類で高価なものは、この保険をかけるときに申告して追加の保険料を払う必要がある。ほとんどの場合、損失を穴埋めすることができる。

この保険は普通の火災保険より少し割高であるが、窃盗犯は3割くらいしか捕まらないので、加入しておくとよい。普通の「住宅火災保険」ではこうした被害は補償されない。自分がどんな種類の損害保険に入っているのかチェックしてみるとよい。

安全がタダだといわれていた良き時代は終わった。これからはセルフディフェンス(自分の身は自分で守る)の時代である。セキュリティの確保にかかる費用と手間を惜しんではならないだろう。物だけならまだしも命まで取られては元も子もないのである。

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