It Is Well With My Soul

"It is Well with My Soul"という聖歌がある。この聖歌にまつわるストーリーはアメリカ人好み(?)の一種の成功譚だ。泣かせる話ってやつ。

1871年。幸せに満ちた実業家ホレーショウ・スパフォードの家庭に悲劇が訪れた。シカゴの大火が起きて、そのために息子を失い、彼の事業も大きな損害を受けたのだ。
      
しかし、にもかかわらず、彼と妻は大火によって被害を受けた人々のために財と時間を費やし捧げ、多くの人々に助けと励ましを与えつづけた。

そしてその2年後、もう一つの悲劇が彼の家族を襲う。

ある時、彼の家族は休暇を過ごすために、ヨーロッパに向かったが、彼の妻と娘たちを乗せた汽船が航海中に船と衝突し、彼の妻だけは救助され助かったものの、娘3人を失ってしまう。スパフォードは仕事のために後から家族を追いかけることになっていたそうだ。

彼がその悲報を受けて妻の待つヨーロッパに向かい、航行中の汽船のデッキから娘たちを呑み込んだ海を深い悲しみの中見詰めているとき、大海原を見つめる彼の心を驚くほどの平安が包み込みはじめた。


そしてできた聖歌が"It is Well with My Soul"だ。 

とてもすばらしい話にけちをつけるつもりはないが、この話を調べていて、とても悲しかったのは、海難事故で娘達を失い、自分だけ助かってしまったホレーショウの妻が彼に送った手紙である。
そのなかにこう書いてあった。

Saved alone(自分だけ助かってしまった)

サクセスストーリーとして仕立てられたその裏にあるとてつもない悲しみを表した言葉だ。母親でなければ書けなかった気がする。ご夫婦ともとても立派な人達だったようだが、この奥さんは、”It is Well”とは言えなかった気がする。
キリスト教徒にはこうした話と歌が心の拠り所になるのだろう、とてもうらやましい。

非キリスト教徒としては、"It is well with my soul(こころ やすし 神によりて寧(やすし))"を神に感謝する言葉でなく、「平気だよ−」と突っ張った物言いをして、自分の平常心を保つ言葉と考えたい。