二月十六日

◎生まれしも帰らぬものをわが宿に 小松のあるを見るが悲しさ
見し人の松の千年に見ましかば 遠く悲しき別れせましや

「住之江に・・」という歌は、辛い毎日を送っていると、しばし忘れ草を摘んでこのことを忘れてしまいたい、でも、それは本心ではないのですよ、というものです。これは「忘れられたらどんなに楽か」「でも忘れられない、私が忘れたら息子はもう一度死んでしまう、二度死なすわけにはいかない」という自分の心の揺らぎへの後ろめたさと同じ気持ちを感じます。

また、「生まれしも・・・」という歌は大変有名な歌ですが、京に帰った紀貫之が荒れ果てたわが家に戻り、前にはなかった小さな松を見て詠んだもので、家に帰っても娘はいないのに、自分がいない間に自生した小さな松(松の子ども)を見ると、その小松があるだけでとても悲しい、という意味です。荒れ果てた庭にたち、小さな松を見ている紀貫之の心根とその悲しさが迫ってきます。「なぜ自分の子が・・・」というやつです。

それにしても古典は難しい。