劣等感とコンプレックスは違う


劣等感を催させる個人の特徴(個性や身体的なもの)には、様々なものがある。本来、劣等感とは、その特徴により自分が劣っているとか、無価値だとか、生きていけるか自信がない、というような感情のことをいっているにすぎない。


似たように用語に「コンプレックス」があり、日本では混同して使われているが、これは、怒りや悲しみなどの強い感情、体験そして思考が無意識的に結びついている状態を指すものである。劣っているということに怒りや悲しみなどの強い感情が、無意識的に結びついている場合を「劣等コンプレックス」と呼ぶが、日常的には、劣等感と劣等コンプレックスはごちゃ混ぜに使われている。

最近、宙出版から「ウォーキン・バタフライ」というたまきちひろの新しい漫画が発売された。

=あらすじ=


 180cmという長身ゆえに巨大なコンプレックスを抱えている主人公ミチコ。ひょんなことから彼女はファッションショーの現場に紛れ込み、モデルと間違えられて舞台に立つが、ギャラリーの視線にさらされた途端、普段の自分に向けられる嘲りの視線がダブり、立ちすくみ、そして、逃げ出してしまう。

その後、この経験があらためて自分自身のコンプレックスと見詰め合うきっかけとなり、彼女は立ち上がり前に進むことを心に決める。

ファッションデザイナー・三原航との出会いを経てショーモデルを目指しはじめた彼女だったが、その道のりは険しい。しかし、かすかな光明を遠くに追い、彼女は走り続ける。

明日の見えないフリーター生活から一念発起、ショーモデル目指して盲滅法にあがきつつ決して歩みを止めない主人公寅安ミチコの成長を描いた待望の最新刊。

読んでみると、コンプレックスをテーマの中心に据えているが、強い感情と結びついた「劣等コンプレックス」を扱った典型であることが分かる。


劣等コンプレックスを唱えたのは初期の頃のアルフレッド・アドラーオーストリアの心理学者)である。アドラーは「劣等コンプレックスの克服を通じて、人格の発達が成立する」とした。漫画の主人公ミチコが180cmという長身であることに強い怒りや悲しみを抱き、それを克服していこうと決意するところは、ミチコの人格の好ましい発達である。


漫画を読むにも、こうした心理学の知見をもってすると、また読み方も変わってくる。コンプレックスといえば、ユングであるが、ユング心理学でこの「ウォーキン・バタフライ」を読むとまた、違った解釈ができよう。